ストロベリー・パニック!萌え落語
「図書館番」



アストラエアの丘。そこには、三つの女学校が建ち並んでおりました。
聖ミアトル女学園、聖スピカ女学院、聖ル・リム女学校。そして、その敷地のはずれにある3校共通の寄宿舎である、いちご舎。
アストラエアの丘・・・それは男子が立ち入る事の許されない聖域でございました・・・。

 最近の若い人はあまり本を読まない、なんて事をよく耳にします。そのせいでしょうか、学校の図書館・図書室なんて場所は今閑古鳥が鳴いているような状況だそうで。
ですからまぁそこで仕事をしている図書委員の生徒というのも暇を持て余している事が多いようでございます。
で、人間暇を持て余すってぇと、まぁ手持ち無沙汰になって色々空想や妄想にふけることが多々あるようで。

「あーあ、特技もとりえも特にないからって図書委員になったのはいいけど、こう暇だと困っちゃうなぁ。人が来ないんだからしょうがないよね。閲覧スペース見てもほとんど誰もいないね。それにしても奥の書庫のほうには何か変に人が多いよ? しかもどういうわけかスピカの人たちばっかり。で、来たかと思えば、あれね、本借りに来たんじゃないんだよ? 何か奥のほうに隠れてね、妙な声出してんの。ここはラブホテルじゃないっつーの。ああいうことしてるからエロ百合娘養成所とか言われるんだよあそこの学校は。今度からスピカの人からは休憩料金って言って4980円くらい取ろうかな…全く。はぁ。あの人たちが出たらもうスピカの人は出入り禁止にしよう。それでね、ミアトルの生徒が優先的に利用できるようにしないと。そのくらいしてもいいよね? でね、そうやって私が一生懸命お仕事してるとね、そのうち渚砂お姉さまがやって来てね、『あ、千代ちゃん、いつも図書委員のお仕事頑張ってるね、偉いね』って、私を褒めてくれるんだよ。それでね、私が『ありがとうございます。渚砂お姉さまにそう言って頂けるなんてとても嬉しいです』って言うとね、今度は『千代ちゃん頑張ってるから今度私の部屋で美味しいお菓子をご馳走してあげる。来てね。きっとだよ?』って言ってくれるの。うふふふ…。でねでね、それでね、休みの日に渚砂お姉さまの部屋の前をウロウロしていると、お手洗いかどこかから帰ってきた渚砂お姉さまが私のことを見つけていてもたってもいられなくってもう廊下を泳ぐようにしてやって来るね。(両手で平泳ぎの仕草をしながら)『まぁー! 千代ちゃん、千代ちゃん、千代ちゃんじゃないの! あ、もしかして私の部屋に来てくれたの? 嬉しいなぁ! 今日は実は玉青ちゃん出掛けてていないのよ。だからね、私しかいないの! 千代ちゃん入りなよ、ね? 遠慮しないで!』って部屋に入るように誘ってくれるの。でもそこですぐに言われたとおりに中に入るのははしたないわよね。だから最初は『いえ、急にお邪魔したら悪いですし』って断るの。そうしたら渚砂お姉さまはどうしても私のことを部屋に入れたいからね『そんな水臭いよ千代ちゃん。いいから入りなよ。…入りなって。ね? お入りって。お入り、お入り、(妄想に拍車が掛かり、一段と大きい声で)お入り!』」
「(いま図書館に入ってきたばかりの生徒Aが小声で)…ちょっとカウンター見なさいよ。いや、何か変な子が座ってるのよ。何? 図書委員の子? え? だって、『お入りお入り』って言うから私たちに言ってるのかと思ったらどうもそうじゃないらしいわよ? 自分で自分の手ぇ引っ張って『お入りお入り』って言ってるわよ? それにしても色んな声出して…。ねぇ、ちょっと面白いからここで見てましょうよ」
「中に入るってぇともうすでにお茶とお菓子の用意が出来てるの。それで『千代ちゃん、ゆっくりしてってね』ってお茶を淹れてくれる。『はい、それじゃ頂きます』ってお茶とお菓子をご馳走になってると、そのうち渚砂お姉さまがすごい事を言うの。『ねぇ千代ちゃん、いま千代ちゃんが使ってるティーカップ、さっき私が口をつけたんだけど、口をつけたとこだけ洗ってないんだ………どうする? ねぇ、どうするの? ど・う・す・る・の?』潤むような目で私を見るから…くくくくく、弱ったなぁ!」
「今度はあの子弱ってるわよちょっと! …あなたそんなとこでBL雑誌漁ってる場合じゃないわよ! 早くこっち来て見なくちゃだめよ!」
「あんまり長っ尻ていうのも良くないね。千代ちゃん可愛いけどいつまでも長っ尻、こういう子は嫌いズドン、難しいところね。でもせっかくここまで来てここで帰るっていうのも勿体ないね。何か足止め足止め…。そうだ、遣らずの雨に降ってもらおう。遣らずの雨がサーッと降ってくる。野口五郎岳の方から大雷がゴロゴロゴロゴロ…、小雷がコロコロコロコロ…、ゴロゴロゴロゴロ、コロコロコロコロ、ゴロゴロコロコロ、ゴロゴロコロコロ、雨が、ザーッ!」
「今度は雨降らしてるわよあのバカ!」
「渚砂お姉さまは雷が怖いもんだからベッドに潜り込んで『千代ちゃん、雷がやむまで一緒にいて欲しいの』ってベッドの中でこんな形、色っぽくなるね。『ねぇ千代ちゃん、こっち来て、早くこっち来て、ねぇ、ねぇ、にゃーお』って、ネコだね。どうしようか迷ってるうちにあたりで落雷、カリカリカリカリ、ピシーン! ってんで、渚砂お姉さまは「うーっ」って目を廻して倒れちゃう。仕方ないからベッドに上がって渚砂お姉さまの顔を見るともう息も絶え絶えね。残ったお茶を飲まそうとしても受け付けない。仕方がないからお茶を私の口に含んで渚砂お姉さまの口へ…口から口へと口移し! マウストゥマウスですよ! (妄想の中の渚砂を抱きかかえるような格好で下を向き、タコみたいに口を尖らせて、その勢いで椅子から転落)んーっ。…ドタッ」
「な、ちょっと何あの子とうとう桂三枝みたいに椅子から落っこちちゃったわよ!」
「(呆けた口調で)んー、渚砂お姉さまのクチビルは、床の味…」
「って、また何か言いながら、上がってくわ」

図書館番という一席でした。


解説

元ネタは古典落語「湯屋番」。
道楽が過ぎて家を勘当され、出入りの職人の家に転がり込んだ若旦那だが、そこの家にも居づらくなったので銭湯で奉公をする事になる。
番台の上に座った若旦那、番台の上でいい女の客とねんごろになる妄想を繰り広げる…という噺。

妄想で暴走する主人公の噺、という点では現代でも充分通用する、パロディ化しやすい内容である。
ただこの「図書館番」は千代が主人公なので「湯屋番」の前半部分はすっぱり切ってしまい、若旦那が銭湯の番台に上がる辺りからパロってある。

ちなみに夜々が主人公の「夜々番」という噺も作れるのだが、夜々の妄想はそれだけで十八禁になりそうなので現在はお蔵入りになっている。

世の中には主人公が銭湯の番台に座る、という設定のエロゲーもあるらしいので、人間の考える事なんて昔からそう変わらないのかもしれない。


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